勤務医として働いている歯科医師「『社保』ってよくわからない。求人で『社保完備』の歯科医院をみかけるけど、メリットはなんだろう。デメリットや国保との違いも知りたいな。」
本記事ではこういった疑問にこたえます。
✔︎ 記事の信頼性
この記事を書いている私は歯科医師です。
社会人になってから長い間「社保」がよく分からずに生活していました。
そのため結果として損をした経験があります。
現在はフリーランスの歯科医師として生活しています。
この環境から語ります。
勤務医として働く歯科医師むけに『社保』について解説します
歯科医師(勤務医)むけ:『社保』とは
『社保』とは『社会保険』の略です。
国が定める制度の一つで病気や高齢、失業、災害、介護などに対しての、補償の役割を担っています。
企業や法人に勤める正社員や、一定の条件を満たした非正規社員が加入することができます。
大きい企業が自前で設立している組合健保、中小企業が入るような協会けんぽ、 歯科医療に携わる人が入ることのできる歯科医師国保…など様々な団体があります。
社保完備とは
よく求人で見られる『社保完備』とは次の保険すべてに入ることができる(完備している)ということを意味しています。
✔︎ 【社保完備】で完備されているもの
健康保険:病気や怪我の医療費の一部を負担してくれる
厚生年金保険:高齢や障害になったときに給付金あり
労災保険:仕事中の怪我や病気に対して給付金あり
雇用保険:失業、育児、介護休業のときに給付金あり
※ 40歳以上はここに雇用保険が加わります。
しっかり保険に入りたい…と希望する歯科医師の先生にとって、重要な働く基準のひとつです。
歯科医師が加入できる社保とは
歯科医師が社保に加入するためには、所属する病院が社保の適応事業所になっている必要があります。
加入すること多い社保は主に以下の2つです。
・協会けんぽ(健保)
・歯科医師国保
協会けんぽ(健保)とは全国健康保険協会という団体が運営しています。
加入事業所は中小企業、小規模企業が多く、国民の約3.2人に1人が加入する日本最大の団体です。
現時点で約4,000万人の加入者がいます。
一方で、歯科医師国保は歯科業務に従事する人が入ることのできる団体です。
歯科医師だけではなく、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、受付、その家族も加入することができます。
約67,000人ほどの加入者がいます。歯科医師”国保”ですが、内容は「社保」です。
歯科医院が社保に加入している場合、このどちらかに加入していることがほとんどです。
加入できる条件
歯科医院に勤務する歯科医師が社保に入るためには、まずは歯科医院側が社保の加入条件を満たしている必要があります。
逆をいえば、満たしていれば必然と加入義務が発生します。厚生労働省:社会保険適用拡大サイト
✔︎ 正社員
・法人(会社)に勤務している
・5人以上の従業員がいる歯科医院に勤務している
このどちらかを満たしていると、病院は従業員を社保に加入させなければいけません。
従業員が4人までの歯科医院は加入義務がありません。この場合は、院長との合意があれば加入できます。
✔︎ パート・アルバイト・非常勤
・正社員の3/4以上の労働時間または日数を働いている
・従業員501人以上の病院に勤務している
このどちらかを満たすことで、加入の義務が発生します。
パート、アルバイト、非常勤でも条件をみたせば加入できます。いつのまにか正社員の3/4以上働いている…なんて先生は割といます。
歯科医院で501人以上の従業員を抱えるところはあまりありません。
※ 2024年10月からは従業員51人以上…と大幅に変わるので、入りやすくなります。
国保(国民健康保険)との比較
国保(= 国民健康保険)は社保に加入している人「以外」、全員加入しなければいけません。
保険料は本人が全額負担です。
一方で社会保険は保険料の半分を勤務先の会社や法人が負担してくれます。
また国民健康保険は1人1人加入する必要があります。これに対し社会保険は扶養制度が設けられていて所得の少ない家族を加入させることもできます。
国民健康保険に比べ、保険料は高くなりがちですが将来もらえる年金が増えるという利点もあります。
また社会保険には厚生年金、雇用保険、介護保険が含まれています。
そのため万が一の事故や災害介護に対する保証や、将来もらえる年金の額が多くなります。
勤務医として働く歯科医師が社保に加入するメリット・デメリット
✔︎ メリット
・将来もらえる年金額が増える
・怪我や病気のときにお金が支給される
・出産のときにお金がでる
・失業時にお金がでる
✔︎ デメリット
・手取りが減る
以上のとおりです。
メリット ①:将来もらえる年金額が増える
将来にもらえる年金額が増えます。
社保に加入しておくと国保に比べて年金を上乗せしてもらうことができるからです。
国民年金の平均受給月額は約5万6,000円、厚生年金(国民年金分含む)の平均受給月額は約14万5,000円で、かなりの差があります。
とはいえ将来的には何歳からもらえるかとか本当にもらえるかなどの議論は続いています。
メリット ②:怪我や病気のときにお金が支給される
怪我や病気の時にお金が支給されます。
社会保険の傷病手当の制度を利用することで、いままでの収入の約2/3の金額が最大1年6ヶ月の期間支給されます。
国保にはこういった傷病手当金はありません。
メリット ③:出産のときにお金がでる
出産のときにお金が出ます。
産休とは出産予定日までの6週間、出産後の8週間は休業できる制度で、育休とは出産日の翌日から1歳になるまで休養できる制度です。
社会保険に入っていれば誰でも取得できます。給料の約2/3をもらうことができます。
国民健康保険では育休はありません。(ただし出産予定月の前月から4ヶ月間のは「産前産後期間」として保険料を免除することが可能できます)
メリット ④:失業時にお金がでる
社会保険は失業時にお金が出ます。原則として、離職した日の翌日から1年間もらうことができます。
金額は勤務年数や年齢によって違いますが、月給の半分〜8割ぐらいもらえます。
国保はこの保証がありません。
デメリット:手取りが減る
デメリットとしては毎月の手取りが減るということが挙げられます。
手厚い保険料払っているのでそのぶん毎月の負担は増えます。
自身の状況にもよりますがざっくり言うと総支給額の約15%〜20%ほどが社会保険料と考えておくと良いでしょう。
>>参考:【手取りに影響】歯科医師として働く前に知りかった税金がひかれる話
具体的には、年収800万円の場合は約120万ほど、 年収1200万円の場合は150万円ほどが、社会保険料として徴収されます。
社保に入りたい…条件を満たしたいるのに加入できない場合
繰り返しになりますが、社会保険加入の条件を満たしている歯科医院には従業員を加入させる「義務」が発生します。
にもかかわらず、社保に加入できずに国保のまま…国保から社保に変えたい…という場合はどうしたらよいでしょうか。
結論は以下のとおりです。
①:院長に交渉する
②:管轄の機関に相談する
③:環境を変える
①:院長に交渉する
責任者である院長に交渉するのがまず第一選択です。 法人の場合は理事長になります。
決定権のある人に話を通すようにしましょう。
加入の義務のあるにも関わらず知らない….というだけで加入してないケースもあります。
歯科医院側にとっては金銭的な負担が増加するため、場合によっては対立するような構造となってしまうので注意が必要です。
②:管轄の機関に相談する
管轄の機関に相談するというのも一つの手段です。相談すると会社に対して加入の手続きを働きかけてくれます。
厚生年金は年金事務所、健康保険は全国健康保険協会が窓口になっています。リンクを貼っておきます。
・厚生年金:年金事務所
・健康保険:協会けんぽ(全国健康保険協会)
病院によっては犯人探しをされるリスクもあります。
✔︎ 労働基準監督署に相談はありだけど…
労働基準監督署に相談する方法もあります。とはいえ、かなり大事になる方法なので、対立構造が顕著になってしまう可能性があります。
この病院でどうしても社保に加入するんだ!そして働き続けたい!というひとの奥の手です。
③:環境を変える
環境を変えることは有効な方法です。
・社保完備の歯科医院に転職する
・開業する
この2つは大きな選択肢になります。
今いる歯科医院の制度を変えるよりも、自分が変わった方が圧倒的に簡単です。
✔︎ 社保完備の歯科医院に転職する
社保完備の歯科医院に転職することで簡単に社保に加入できます。なぜなら制度がすでに整っているからです。
今は社保完備で検索できる求人サイトや、 歯科医院内の人間関係をリサーチしてくれる求人サイトもあります。
歯科医師向けの求人サイトは山ほどあるので次の記事でまとめました。
» 歯科医師向けおすすめ転職サイト5選【転職4回の歯医者が失敗しないコツを伝授】
経験上、自分に合った求人サイトを使うことはわりと大切です。興味のある先生はぜひどうぞ。
定期的に眺めておくだけでも、自分の立ち位置を知ることができるので便利です。
✔︎ 開業する
自分で開業するということも手段のひとつです。雇われる側から雇う側の立場が変わります。
全て自分の思うようにコントロールできると同時に、責任も大きくなります。
従業員が5人未満の個人事業主であれば、従業員を社会保険へ加入する義務はありません。
ですが希望すれば、規模に関わらず加入することができます。結果として、従業員の定着につながることもあります。
»【632万円】勤務医の歯科医師の年収を解説|年収アップの方法も紹介
社会の仕組みは大学で教えてくれない…【自分で学ぶしかない】
この記事は歯科医師になりたての頃の自分に向けて書いています。
以前は残業代が有給がなかったり、社保に加入できない病院で働いていたことがあり、今思うと割と損していました。
このことから、税金や制度の知識はある程度必要だと痛感しています。
ほんの少しの知識をえるだけで、安全安心に働くことができるだけでなく、お得にくらすことができます。
どの業種にも言えることですが専門の知識に加えて、生きるための知識は必ず役に立ちます。
勤務医として働いている歯科医師の先生にとって、少しでも役に立てたら嬉しいです。
今回は以上です。
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